ナックルサーブは過大評価されている()
そのナックルサーブ、相手に効いてますか?
樊振東もナックルサーブ⁉︎
最近の卓球王国にあったサーブ特集の記事によると、世界レベルの卓球ではナックルサーブが主流らしいです。
YGサーブを使う選手、樊振東やピッチフォードもナックルYGを使っているのだとか。
樊振東と言えばブチ切れYGサーブだけど...。
強烈な回転のYGサーブが印象的な樊振東も、順横回転系のナックルサーブをメインに、サーブと三球目攻撃の連携で得点を取りに行っているのだとか。
2017年世界卓球決勝、YGサーブをメインに組み立て
確かに、最近の樊振東はめっきりYGサーブの使用頻度が減少していましたね。
東京オリンピックという大舞台でも、ほぼフォアサーブのみで戦っていました。
決勝戦はストップレシーブの神、馬龍との対戦。
馬龍に対してはYGサーブの方が長いレシーブをもらいやすいはずですが、ここでも樊振東はフォアサーブに終始していました。
最初から
最後まで
使うとしても、フォアサイドに立って相手のフォア前にYGサーブを出すパターンのみで、バック前からYGサーブを出すパターンは皆無に近かったと記憶します。
世界トップレベルがナックルサーブを出す目的
しかし、今回の世界卓球2022で樊振東はYGサーブからの展開を多用しています。
これからナックルサーブ主体のトレンドが移り変わるのかもしれません。
世界のトップレベルの選手は息の長い選手が多いです。安定して勝ち上がるため、対戦する機会も多く、使うサーブを一定周期で変化させていかなければ相手に慣れられてしまうのでしょうか。
そもそも、ナックルサーブ隆盛の一因はチキータレシーブの流行と関係していることは明らかです。(というか水谷さんの言ですけど)
サーバーが回転をかければかけるほど、レシーバーが強烈なチキータで返球してくるため、「だったらナックル出すわ」という流れ。
サーブ+三球目攻撃が基本では?
ナックルサーブからの三球目攻撃
世界レベルではレシーブの基本がチキータにあって、それをいかに防ぐかがサーバーが重きを置いているところ。
では、草の根の初中級者がサーブ権を持った時に第一に考えることはなにかといったら「サーブを出して三球目攻撃!」ではないでしょうか?
「ナックルサーブを出して、相手のレシーブを単調にさせた方が三球目が打ち易い」
とはよく言われるものですが、相手のレシーブを単調にするというのにも種類があって、
1.複雑な回転をかけさせない
2.相手のレシーブ方法を限定させる
理想としては相手に素直な回転の、単一な種類のレシーブをさせたいところですが、果たしてそう思い通りの展開になるのでしょうか?
回転がないボールに対しての難しさ
1.の「複雑な回転をかけさせない」については、こちらがナックルサーブを出すことで、相手のスイング通りの弱い回転で返球させることを指しますが、裏を返せば相手のレシーブの回転を利用した攻撃ができなくなるということでもあります。
回転のかかっていないボールに対して、一から回転をかけるための労力は、回転のかかったボールに対する掛け返しの比ではありません。
回転のかかったボールにはエネルギーがあります。
相手が回転の強いドライブを打ってくれば、こちらがそのボールの上側を少し擦ってとらえることで相手コートで伸びる攻撃的なブロックとなり、相手にとって連打の難しいリターンになります。
一方、回転のないボールに対して同じことをしても、相手のコートで伸びる質の高いブロックにならないどころか、相手に打ちごろの球を献上しかねません。
その様な回転のかかっていないボールは世界トップレベルの選手のプレーにも影響を与えています。
馬龍はバック面に粘着ラバーを貼り、相手のドライブに対して掛け返しのカウンターを得意としています。
樊振東のボールを利用して倍返し
馬龍のバックに強いボールを送れば送るほど、威力が倍になって帰ってきます。
その馬龍と相性の良いのがチョンヨンシクなのですが、馬龍に対して緩くてそこまで強い回転のかかっていないボールを多用することで、馬龍のカウンターを封じているのです。
相手のボールの回転やスピードを利用できないときは、自分の力でボールにエネルギーを与えなければ質の高い攻撃は不可能です。
ナックルサーブを出せば、当然返球されるボールはあまり回転のかかっていないものになるため、しっかりとしたインパクトが出来なければボールは走りません。
そして、打球時のインパクトを確保するためには、相手レシーブのコースや種類を予測して準備しておく必要があります。
返球コースと打法が絞れなければ強打できない
2.の「相手のレシーブ方法を限定する」についてです。
ナックルサーブを出した際、例えば相手のレシーブがクロスへのフリックレシーブだけに限定されるのなら、三球目攻撃につなげるサーブとして非常に有効でしょう。
来るコースが予め分かっているのですから、三球目強打での得点が期待できます。
問題は、相手レシーブのコースや打法の種類が限定できない時です。
特に初中級者は予測が外れた時のボールの質が、予測が的中した時と比べて著しく落ちることが多いどころか、そのままミスにつながることもあります。
フォア前にナックルサーブを出して、フォアクロスへのフォアフリックを待っていたとしましょう。
そこへ予想外にもフォア前ストップが来た時、キッチリとダブルストップを止めたりフォアフリックで相手のミドルをついて相手の強打を防ぎつつ、五球目攻撃につなげたりといったことができる初中級者は一体どのくらいいるのでしょうか?
これは初中級者に限った話ではありません。
ナックルサーブは回転による相手への影響力がないため、相手の方が格上であったり、台上技術が上手である場合、ほかのサーブよりも三球目攻撃がし辛くなるのではないかということです。
相手がやってくることが読めない上に、回転がかかっていないことが災いして三球目で棒球を送ってしまうことが最悪のパターンでしょう。
ナックルサーブも、結局は相手に効いているのか、そのサーブを出して得点につながっているのかをしっかり分析した上で使っていく必要があるでしょう。
出しても得点につながらないサーブを延々出していて試合に勝てるはずはありません。
ダブルスの定番といえば、ナックルサーブだが...。
上手な方とダブルスを組ませていただいた際に、
「ダブルスでは複雑な回転のかかったサーブは封印して、ナックルサーブを低く確実にツーバウンドする様に出しておけ」
と言われることが多いです。
上述したように、ナックルサーブを出した後の三球目ってそんなにやり易いのでしょうか?
確かに、ナックルサーブをしっかり出せれば、相手にレシーブからドライブで攻撃されることはありませんし、一撃で抜かれる様なフリックもそうそう打てないでしょう。
ナックルサーブを出すことで、相手のレシーブ強打を防げるという言い分には何の異論もありません。
しかし、ナックルサーブを出した場合に考えられる相手のレシーブは
「ストップ、ツッツキ、フリック、チキータ、流し」
こちらが回転をかけないため、相手のレシーブの択が限定できないじゃないですか…。
相手レシーブの得意不得意の把握、試合の流れによる読みを駆使すれば必然と択が絞れるのでしょうけど、初中級者ってそこら辺の精度が低いからこそ初中級者なので…。
威力のあるサーブで中国に勝利したミマジュンペア
巻き込みサーブ連発
勝負所でYGサーブ
上級者はそれが高い精度で出来るからナックルサーブで良いのでしょうけど、その上級者も、自分より格上の人と試合をしたら読みの的中率が下がるはずです。
相手の方が格上で技術的にいろいろできる中、回転による相手へのプレッシャーがないサーブを出せば、やりたい放題されるのは必然。
そうなるくらいなら、強い回転をかけたサーブも全然ありだと思うのです。
ナックル&ナックルではなく、ちょっと切った下回転を出せばレシーブをツッツキのみに限定できれば、三球目がやり易すくなります。
と言うより、切った下とナックル、ロングサーブもしっかり出して、ダブルスと言えどガンガン相手レシーブに対するプレッシャーをかけるべきではないかと思うのです。
東京オリンピックで日本が中国に勝てたのも、伊藤選手、水谷選手の両者のサーブ力による部分も大きいと思います。
サーブの基本は回転のかかったロングサーブ
中国では、回転のかかったロングサーブを習得することを最優先にするようです。
回転が掛かっていて、スピードの速いサーブはそれ自体で得点することも出来ますし、
台上の展開をすっ飛ばすことで、相手のレシーブを台から出るボールに限定できます。
「相手のレシーブをシンプルにする」という意味で、ナックルサーブを使うのと同等以上の効果が期待できます。
相手のレシーブを限定するという意味では、ショートサーブの回転量も重要です。
よく一緒に練習し、色々教えてくれる段持ち相手に試合をした際のことです。
私が「三球目を打ち易い様に」とコントロール重視で回転を抑えたショートサーブを多用した結果、台上からの展開で翻弄されてしまいました。
相手の方曰く「丁度なんでもできちゃう様な回転だった」ようです。
それならばと、強い下をメインにナックルを混ぜる組み立てに変えた結果ストレート勝ち。
サーブの威力が試合結果を大きく左右すると実感した体験でした。
卓球は回転と予測のスポーツです。
初中級者は回転をちゃんと掛かったサーブを出せたり、試合の組み立てができる様にならなければ、ナックルサーブの本当の有用性が理解できないのではないかた思うのです。
回転の掛かったサーブがあるからナックルが効き、ナックルがあるから回転のあるサーブが効く。
ナックルサーブはそれ単体で語ることは出来ないものだと思います。